U-NEXTのポイントが期限切れになりそうということもあり、消費がてらちょっと気になった映画を見てみることに。 タイトルにもなっている“ノセボ”とは、プラセボ(プラシーボ)の対になるような語で、心理的影響により負の方向へなんらかの悪影響が発生する事象を指すようです。
ファッションデザイナーのクリスティーン(演: エヴァ・グリーン)はある日を境に原因不明の手の震えや記憶喪失、幻覚などに悩まされるように。 心身ともに衰弱していく矢先に、フィリピン人女性のダイアナ(演: チャイ・フォナシエル)が「助けになります」と突如現れます。 住み込みで“お手伝いさん”として働くダイアナはクリスティーンに民間療法を実施し、それによって短期間でも回復の兆しが見えるようになっていくが……というようなお話。
一応ジャンルとしてはホラーにカテゴライズされているようですが、サスペンス・ミステリー的な要素のほうが強い気もしました。
嫌悪感を催させる描写はあるものの、恐怖描写は控えめ
上記の通り、ホラー映画として本作を見ると肩透かしをくらうというか、恐怖描写は程度も頻度も控えめなために物足りないと思います。
ただ、物語のキーにもなる、諸々の描写はなかなかに嫌悪感を覚えるものがあり、そちらのほうは見ごたえ(?)あり。 集合体恐怖症の人は少ししんどいかもしれない描写もあったり……。
なので、本作にホラー的要素を求める場合は満足いかない可能性もありますが、これまた前述の通りサスペンス的・ミステリー的な要素のほうが強い印象が個人的にはあり、そちらのほうはなかなか興味深いものでした。
ダイアナという存在の大きさ
さて、もうちょっと踏み込んだことを書こうと思ったとき、ネタバレは避けられないため、以下に畳んでおきます。
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ダイアナはフィリピン人である……というのははじめの方に書きましたが、ここがまずちょうどいいアクセントになっていたと思います。
我々もそうですし主な視聴層の欧米諸国もそうですが……フィリピンの文化・風習などにどれほどの知識があるでしょうか。 おそらく、ぼんやりしたイメージしかなく、深くその生活などについては(フィリピンの生活や文化に興味があって調査したりしている人でもない限り)よくわからないと思います。
それによって、ダイアナが本作で行う民間療法に対しても「インチキだ」「胡散臭い」「(ホラー映画だし)民間療法と言いつつ呪術なのでは?」という目で見てしまう人も少なくないと思います。
なので、私はできるだけフラットに先入観が入りこまないように、作中で行われる民間療法を受け止めようとしました。 本当に治療しているのかもしれないし、何らかの理由での呪術かもしれない。 本当は治療していたのに誤解によって良くない方へ転んでいってしまうパターンもあるかもしれない……というような推測のもとでひとまず判断は置いておいたのです。
結果的には……全てが呪術というわけでもなく、治療も含まれていたのだと思います。 彼女の目的としては「過去と対峙させること」であったし、発端を考えると呪術のほうだった(つまりマッチポンプを仕掛けて信頼を得ようとした)のですけれども。
作中で描かれたあれこれが本当に存在するのかも含め、どれがどういったものなのかは目に見える効果でしか判断できません。 そのあたりのミステリアスさも含めて、ある意味では異文化と遭遇した時の心の動きが効果的に使われていたキャラクターであり、もう一人の主人公だったのかな、と思います。
そしてダイアナがフィリピン人であることと、当初の主人公・クリスティーンがファッションデザイナーであることも、物語の後半に差し掛かると納得の組み合わせでもありました。
映画の体裁としてはホラーとかそういうものにはなりますが、根底にあったものはファストファッション批判・発展途上国の搾取問題への言及だったのです。 思い返せばふとしたセリフにその伏線はありましたが、なるほど……!となりましたね。
視聴開始後は全く繋がらなかった情報が、じわじわとまとまっていき、最後には一本の線となる……こういう要素が大きな部分のため、どちらかといえばサスペンス・ミステリー寄りなのかなと思ったのでした。
呪術というオカルトでクラシカルなもの(もちろん、今現在も残っているものもあるとは思いますが)で、劣悪な環境で安く労働を強いられるというモダンな問題を描いているという、社会派とまでは言わないまでもメッセージ性と映画のシナリオがマッチした作品です。
フィリピン的な要素もそれなり以上に含まれ、取り合わせのよさもあってユニークな作品だと思います。
……と、ここまで書いてきて思ったんですが、未視聴の人に向けてネタバレを極力排除して感想を書くのって、とても難しいですね。 なにも伝えられていない気がしています……。
ともあれ、ご興味があればどうぞ。